あるメディアに寄稿した旅行記です。文字数制限もありライトな内容ですがどうぞ!
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サパはハノイから夜行列車で一晩、バスで1時間の山岳地帯にある。フランス領時代に避暑地として開発された。
新しいゲストハウスやホテルができていたが、市場も町並みも趣きを変えていなかった(2004)
7年前に知り合った女の子と偶然再会した。
場所はベトナムの北部山岳地帯、サパという小さな町の広場だった。
民族衣装の集団のなかのひとりが彼女だとすぐわかった。しかしさすがに向こうは憶えていないだろう。そう思いながら、ふたたびすれ違ったときそばに行って声をかけた。
「前に君と会ったことがあるよ。ユーちゃんだよね?」
「さっき広場であなたを見た」と彼女は流暢な英語で言った。「昔あなたがここに来たのを覚えてる。写真も持ってる」
村から町にやってきて旅行者に民族小物や布を売る女性たち。小さい子供たちは耳で覚えた多国語を駆使する
彼女はモン族という山岳少数民族で、学校に行っていないから読み書きはできない。ただ、旅行者とのやりとりのなかで耳から学び、英語のみならず日本語やフランス語も理解できた。そういえば写真をほしいと言われて証明写真をあげたことがあった。町に来て路上で小物や民族衣装を売っていた彼女は13歳だったから今は二十歳のはずだ。同族の男性と結婚し、すでに二人の男の子の母親なのだという。今はめったに町には出て来ず、今日は買い物に来たらしかった。
はじめて会ったときはぼくも独身の一人旅だったが、今回は妻と一緒だった。結婚記念に夫婦で一年間世界旅行をしようと、手始めにベトナムに来たところだった。
マーケット前に停められたバイク。バラの蕾には丁寧に濡れ新聞紙が巻かれている
チェという涼デザート。自然素材がふんだんに。これで1000ドン(10円弱)だった
彼女の家に招かれたぼくたちは、翌朝迎えに来てくれた彼女と二台のバイタクに分乗した。徒歩だと3、4時間かかるらしい。
昨日の激しい雨で道はぬかるみ、えぐれて泥水が溜まっている。前方のバイクにはモン族の運転手と妻と彼女の三人。ガソリン節約のためだろう、下りはエンジンを切り、慣性のみで進む。油断すると滑って横転、あるいは突き出した石でパンクしそうな悪路をドライバーはゆっくりと絶妙なバランス感覚で運転していった。
バイクを降り、山道を小川に沿って数十分上った高台に家があった。土間と高床式の寝室一間の簡素な造りだった。
同じモン族の夫は、遠くの山に木を切り出しに出かけ明日まで不在らしかった。
土間に掘られた炉端で、おばあさんが布に蝋で線を引いている。夫の母親だそうだ。子供たちは人懐っこく、突然の来訪者にまるで物怖じする様子がない。近所の子供やユーちゃんのお父さんもやってきて、何をするでもなく椅子に腰掛ける。隣家から木を削る音が聞こえてくる。外には豚がいた。ゆったりとした時間が流れていた。
蝋で布にデザインを描く緻密な作業。新年の衣服の準備に植物繊維から布を作り、3ヶ月ほど浸け置いて染色する
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