便利なWEBサービスができてきて、サイトを自分で作る敷居は格段に低くなりました。でも、いざやろうとしても何から始めたらいいのかわからなくて諦めてしまう人はまだまだ多いかもしれません。
そこで、どこにでもいる平凡なおっさんが自サイトを開設するまでのストーリーをご紹介しながら、どうやってハードルを乗り越えて行けばいいのかを考えていきたいと思います。
Sさん(42歳・ITスキルあまりなし)の皮算用と挫折
自分のサイトを持ちたいと思っているおっさん(Sさん)がいました。
「オフ会で渡す自分の名刺に、サイトのアドレス入れてたら格好ええからのー」
ふだん会社でパソコンは触るものの、ほとんどオフィスソフトを使うだけ。これまでウェブといえばほぼ見るだけ。なのでハードルが高くてどこから手をつけたらいいかわかりません。
前に無料ブログをやったことはありました。お気に入りのブロガーのサイトと同じブログサービスで。でも、肩慣らしに日記を4日つけて気づいたのは、そのブログにはアフィリエイト広告を入れられなかったという事実(有料版ならできると後でわかったけれど)。わーおわーおわーお。
せっかくの自分の場所なんやから、お気に入りの商品も紹介したい。誰かの役に立って(誰の役に立つかは知らん)、なおかつ小遣いが稼げれば、趣味の予算の足しにできる。そう目論んでいました。最近、子どもの塾代のために小遣いを泣く泣く減らしたし。
せめて数千円、あわよくば一万円くらい毎月稼げないか。そう思っていたものの、気づけばとらぬ狸の皮算用。たぬきってどう鳴くねん? キャオ~ン、パタ。放置。
玄関先に広告看板かっ!
無料ブログって、案外自由に使えんなぁ。そう思いながら久しぶりに自分のブログにアクセスしてみると、いちばん上に広告が挿入されていました。
「なんやこりゃ!」
そういえば今までこんなサイトをごまんと見たことがあった。それではじめて、無料ブログがどうやって成り立っているのか理解できたのです。自分専用の部屋と思っていたのは、他人の家の軒先にゴザをひろげていただけ。家でいえば番地にあたるアドレスも、そのブログサービスの名前が入っていて思い通りにならない。しかも玄関先に、なんの断りもなく広告の看板が立てられている。
いくら大事にメンテナンスしたところで、貸主(運営会社)の方針が変わったらいつ更地にされるかわからない。アフィリエイトができようができまいが、無料とはそういうことなのだ。
できるかも! でもやっぱり無理か…
Sさんは、自分専用のホームページを持ってみたいと願うようになりました。
「独自アドレスの個人サイトって意外と多いんや」
気をつけていると、そういうこともわかってきました。
「じゃあ、おれかてできるんちゃうか」
そう思って、ホームページ開設について調べはじめました。
でも、ネットには情報があふれていて、自分ひとりでできるものなのか判断に迷いました。なかにはまったく理解できない記号みたいな文章もあります。
「これ勉強せんとアカンのか……」
結局なにから手をつけていいのかわからず、二週間もすると最初はやる気はしぼんでしまったのです。
愚痴だって言いたくなるわ
「初心者がやるのはやっぱ無理やなー。ハードル高すぎるわ」
ある晩、久しぶりに小学校時代の友達と飲みながらため息をつきました。Sさんはほとんどあきらめていて、当然友人もからは同意か慰めが返ってくるだろうと思っていました。
しかし、Sさんの話に耳を傾けていた友人の口から出たのは、意外な言葉でした。
「いや。できるんちゃうか?」
「え? どうやって?」
「ハードルが高いのは、最初からプロと同じにやろうとするからや」
「プロ?」
「ええ格好してんねん。たとえば、おれら誰もプロのピッチャーと同じ球を投げれるとは思わへんやろ? おまえが今言ってんのは、素人がプロを見てあの球は投げられへんって口にするんと同じってことや」
「アホか。誰もそんなこと言うてへんし」
目をむいて反論するSさんに、友人は平然と言い放ちました。
「そやったら、無理ちゃうやろ。ただボールを持って、手を上にあげればええだけやん。素人かてできることや」
言っておくが、おれは素人ではない。おまえはおれが中高と野球部やったことを忘れたんか。しかも、おれはピッチャーやったし。知らんとは言わせへんぞ。おれが中継ぎとして不動の地位を確立していたことを! まあええわ。じゃあ、おれがボールを持った手を上にあげるとする。インターネットというボールをこの手につかんで、振りかぶる。そして投げる。インターネットというボールを世界に向かって放ったおれに、もはや迷いはない。
コーチ登場?
きょどりながらブツブツ言う顔をあげて、Sさんは疑問を投げかけました。
「それってどういうこと?」
Sさんの問いに、友人はノートパソコンを取り出しました。
え? おまえはいつからカバンにパソコンを入れるような人間になった?
Sさんの無言の問いをスルーし、友人は手慣れた手つきでブラウザをたちあげました。そして「ドメイン」と打ち込むと、「ムームードメイン」と「エックスドメイン」いうサイトを開いたのです。
「まずはドメインや」
「ああドメインね。そういうことね。何はともあれまずドメインや 」
「とりあえず安い方でええし。で、どんなサイト名がええねん?」
「え、ドメインってあのドメイン? って何のこと? いきなり申し込むの? まだやるとは決めてないしなんも準備できてへんのに?」
「だから準備してるんやないか。そんなん言うてたらまだまだボール握られへんで」
「急やし、金もないし……」
「しゃあない。ここの飲み代はおごったるわ。それでいけるやろ」
ドメインとはいわゆるホームページのアドレスで、それを取得するための費用が、キャンペーン時なら初年度は年間数百円で済むとSさんは知りました。二年目からは千円程度になりますが、もし続かないならやめればいい。サーバー代も月に千円程度だと説明されましたが、Sさんの頭にはビールサーバーしか浮かびません。いや、調べていたときにどこかで見たおぼえがする。サーバーサーバー……。
「場所代や」
ワケがわからないが、酔った勢いでGOを決断。思い浮かんだ日本語を適当な英単語になおします。
「アホなおっさん……。そうや。a 47ossan。47ossan。それでいこ」
そしてボールを持つ
ドメインの申し込み完了まであっという間でした。友人は勝手にSさん用の無料のメールアドレスを作り、サーバーも申し込みを開始していました。エックスサーバー という会社のものだそう。しかしSさんはサーバーという言葉がまだイマイチ飲み込めません。ざっくりいうとインターネット上の住所であるドメインとは別に、サーバーとは家みたいなものだと友人は言います。その家は外からその形が見えるわけではないけれど、友人曰く、けっこう重要なのだそう。
「見えへんけどすごいやつ? X線?」
「レントゲンちゃうし」
「マークX?」
「車やないし」
「マーク・パンサー?」
「マークもパンサーも関係ないし」
「じゃあ…エックスメン?」
「ああそうそう。そんなとこや」(投げやり…)
まだサーバーがピンと来ませんが、酔っぱらいながら、案外簡単やんとSさんは思いました。
「これでやっとプレイボーイやで」
「いやプレイボールやし」
友人のつまらんボケにお約束でツッコミつつ、Sさんはこれからそのボールをほんとに投げられるのかとまだ半信半疑でした。でも同時に、少しわくわくしていました。どこに行くのかわかりもせず先へ先へと進んでいくのが、小学校のときに山でよくやった冒険みたいで。
(続く)ノウハウコレクターになるな! とあるおっさんの自サイト開設までの道のり(2)