個人的映画メモ

昭和から平成に変わるか変わらないかくらいの頃までは、大阪の大毎地下の名画座によく通っていた。二本立てだったから、目当てとは違うやつが意外と秀作だったりして嗜好をひろげてくれた。

そこで配られる独自チラシのなかに「勝手に映画評」というコーナーがあり、上映前のちょっとした楽しみだった。映画好きなおっさんが勝手に送って掲載してもらっているのだとばかり思っていたけれど、評者の重政隆文さんは大阪芸大の助教授だったらしい。

ビデオはあまり普及しておらず(VHSとβの規格争いがまだはっきり勝敗のついていない頃で)、レンタルビデオも今よりずっと高価だった時代だ。

やがてビデオの値段も下がり、レンタルビデオ店がたくさんできた。ぼくも自分の部屋に衛星放送チューナーつきのブラウン管テレビとVHSビデオを買った。たしかあわせて20数万円だった。

今ではテレビ画面も大きくなり、シアターシステムも安く手に入る。便利な時代になった反面、上の大毎地下や毎日文化ホールはつぶれ、多くの人が上映開始前にその映画評なんかに目を通す姿も見られなくなった。

こないだ呑みながら今年の映画のベストは何かという話になった。けれど記憶力の低下かいまいち思い出せなかったので、リハビリがてらに挙げてみた。ここ一年くらいは、それまで数年間ほとんど観れなかった分を取り戻すように毎週一本ペースで映画を観ている。だから公開時期もバラバラでぼく以外の人にはほとんど意味のないリストだ。

以下はここ「半年」くらいに観てよかったもの。

第1グループ(順不同)
・愛を読む人
・八日目の蝉
・善き人のためのソナタ
・イントゥ・ザ・ワイルド
・海炭市叙景

第2グループ(順不同)
・ノルウェイの森
・トゥヤーの結婚
・春の雪
・ノーカントリー
・ソーシャル・ネットワーク

第3グループ(順不同)
・インセプション
・マイ・バック・ページ
・母なる証明
・百年恋歌
・ヒア アフター

上記はDVDで観たものばかりで、まさに「映画館主義者」の重政さんからすればけしからんというのは重々承知だ。映画館と家での鑑賞とでは集中力も違う。ただ、繰り返し見られるという利点もある。「海炭市叙景」「百年恋歌」なんかは、一度目と二度目ではぜんぜん印象が違った。間延びしていると感じられた部分こそが味わい深かったりする。

それで気づいたのは、自分がいつの間にかストーリーテリングにテンポのよさやわかりやすさを求めすぎていたらしいということだった。


「海炭市叙景」予告編。ちなみに熊切和嘉監督は大阪芸大出身だそう。ジム・オルークの音楽もすばらしい。